映画『ほどなく、お別れです』を観てきた。

以下、ネタバレを含むかも知れないのでご注意!

劇場では、鼻を啜る音が四方から聞こえていた。

葬儀屋で「死」がテーマのひとつにある作品なので、予告編を観た段階から「これは泣くやつだな……」という覚悟はしていたんだけど、やっぱりウルッとくる場面があった。

作品の中で、特に印象に残った言葉がある。

予告映像でも流れている

「悲しみは人ごとでいいんです」

という台詞。

葬祭プランナーとして働く中で、葬儀中に故人やご遺族のことを想い、涙してしまう清水美空さんに対して、漆原礼二さんが声をかける場面での台詞。

この言葉は、とても大事なことを言っているなと感じた。

ご遺族が悲しんでいる場面で、葬儀屋がボロボロ泣いてしまうのは、職業的に見てもタブーとされる側面があると思う。

それだけでなく、当事者ではない周囲の人が、勝手に想像して泣いたり、逆に何かを感じ取ったつもりになったりすること自体も、少し違うのかもしれない、と。

それは葬儀のような大きな出来事だけでなく、日常生活の中でも感じることがある。

他人から

「あなたは幸せ者だね」と言われたり、

「あなた、可哀想……」と思われたりすることに、いつもどこか抵抗があった。

それは自分に対してだけでなく、誰に対しても。

どうしてその人の幸せや不幸せを、他人が推し量ることができるんだろう。

その人の気持ちは、その人自身にしか分からない。

立場や環境によって価値観は人それぞれで、周りが見ているその人は、ほんの一部なのかもしれないのに。

他人から見たら幸せそうに見えても、本人はとてもしんどくて、今にも逃げ出したい気持ちかもしれない。

反対に、他人から見たら可哀想に見えても、本人はとても楽しく、毎日が充実しているかもしれない。

そう考えると、誰かに対して「あなたは幸せだね!」と言ったり、可哀想だという視線を向けたりすることは、簡単にはできないなと思う。

今回の

「悲しみは人ごとでいいんです」という言葉は、

悲しむか、悲しまないかは、ご遺族や残された人たちに委ねるべきであって、第三者である葬儀屋がその感情を代わりに表現するのは、少し違うという意味なんじゃないかなと感じた。

もちろん、相手に寄り添ったり、共感する気持ちが大切なのも分かる。

悲しんでいる人を前にして、「他人事、他人事……」と無機質な態度を取るのも、それはそれで違うし。

相手の気持ちに寄り添っているのか、それとも自分の感情を押し付けてしまっているのか。

同じような感情や表現でも、その違いは大きいと思う。

そう考えると、葬儀屋という仕事は、感情のコントロールがとても難しそうだなと感じた。

作中で印象的だったもののひとつに、「忌み言葉」がある。

葬儀の場では使わない方がいいとされている言葉で、「死」や「不吉」を連想させるもの、不幸が重なったり続いたりすることを想起させる言葉などが含まれる。

作品の中では、

・次々

・またまた

といった言葉が出てきた。

どちらも「忌み言葉」の中でも「重ね言葉」と呼ばれるもの。

「死」や「不吉」を連想させる言葉は、なんとなく意識して避けられそうだけど「重ね言葉」は無意識のうちに使ってしまいそうだなと思い、他にはどんなものがあるのか調べてみた。

・いろいろ

・くれぐれも

・みるみる

・近々

・日々

普段、何気なく使っている言葉ばかりで、かなり意識しないと自然に口にしてしまいそう。

使われた側も「忌み言葉」だと気づかないことの方が多いかも。

「忌み言葉」を使われたからといって、「不吉だ」「非常識だ」と感じる人は、現代ではあまり多くないのかもしれない。

それでも、故人やご遺族、悲しみの中にいる人たちに失礼のないよう、言葉を選ぶ文化そのものに、相手を思いやる心を感じられて、僕は好きだなと思った。

タイトルにもなっている「ほどなく、お別れです」という言葉。

これは、故人と、残される人たちそれぞれが、見送られる、見送る準備が整った合図。

それは儀式としての準備が整った、という意味だけではなく、心の準備が整った合図でもあるのだと思う。

亡くなった人が成仏できない、という話を聞くことがあるけど、残された側も、きちんと見送れないままだと、その後の生活に支障をきたしたり、場合によっては生きる希望を失ってしまうこともある。

作中でも「お葬儀は区切りの儀式」「一番救われなければいけないのはご遺族」という言葉があった。

お葬式は亡くなった人のためだけでなく、残された人たちのために行われる儀式という意味合いの方が、強いのかもしれないなと思う。

物語の余韻とは少し違う角度だけど、個人的に気になったシーンがある。

亡くなったご遺体の手を拭く場面。

あの手は、役者さんの演技なのか、それともマネキンのような作り物だったのか。

というのも、亡くなった人特有の、死後硬直した手の形がとてもリアルに表現されていたから。

特に足の指の形まで、実際の亡くなった人のそれにそっくりで、あれは演技なのか、作り物なのか、今も少し気になっている。

作品全体を通して、漆原さんの存在は何よりも心強く感じられた。

一年半ほど前に祖父が亡くなり、亡くなるまでのことや、亡くなってからのことを、いろいろ(←重ね言葉!?)考える機会が多かったのもあるのかも。

漆原さんのように、淡々と、でも誠実に向き合ってくれる人がいてくれたらとても心強いだろうなと思った。

「悲しみは人ごとでいいんです」

それは人のことを想い、寄り添える漆原さんだからこそ、冷たくない心ある言葉になったのだと思う。

 

『ほどなく、お別れです』

原作者:長月天音(ながつき あまね)

漆原礼二 役:目黒蓮(Snow Man)

清水美空 役:浜辺美波